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「月に咲く花」
ニチヨウ
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「月下美人が咲いたわよ」 階下に住む大家さんから突然の電話がかかってきたのは、付きあいだしたばかりの和美を抱いている真っ最中だった。咲いたというからには花なのだろうが、そんな花のことを僕は知らない。何より体よく邪魔されたような気がして、僕は不機嫌に答えた。 「は、月下美人、ッスか?」 僕の言葉に、和美がベッドで頭をもたげる。 「滅多に見られない花よ。もし良かったら、お友達と一緒に庭に出てらっしゃい」 大家さんは、僕が女の子を連れ込んでいるのはお見通しとでも言わんばかりだ。気恥ずかしいのでできれば断りたかったが、和美が毛布から「見たいなあ」と可愛いおねだり顔を覗かせている。無視はできなかった。 服を着て髪の乱れを直し、言われたとおり一階の庭に行ってみると、そこには白くて大きな花が七輪ほど咲いていた。和美は歓喜の溜息をつき、僕はしばし言葉を忘れた。 月光に照らされて気高く悠然と咲く花は、見たところ南国の植物だろうか、確かに『美人』という風格だった。見慣れたはずの風景を幻想的に塗り替えるほど強い存在感と、濃厚な甘い香りに、強く惹きつけられる。 「こんな花、初めて見たよ」 呟いた僕に、和美が教えてくれた。 「一年のうち一晩だけ花を咲かせて、次の朝にはしぼんじゃう花なの。まさに美人薄命よ」 「なるほど、だから月下美人か」 感心して頷いていると、グラスに入った麦茶を二つ持ってきた大家さんが僕を茶化す。 「でも、『こんな花より僕の彼女のほうがずっと美人だ』って思ってるでしょう?」 「ハハハ、まあ……その通りですけどね」 花と夜に酔わされたのもあるが、恥ずかしげもなくそう言えるほど、僕は和美に惚れていた。透きとおる白い肌、細くしなやかな肢体、顔や髪の毛や声。すべてが美しかった。 だから、美人薄命では困るのだ。 「和美には、長生きしてほしいよ」 僕の言葉に、和美は照れ笑いをした。
あれから十数年――。 「健太、泥だらけのまま家に入るなって何度言ったら解るの!」 八歳になった息子をドタバタと追いかける和美に、あの頃の面影はない。白い肌は子供の行事ごとに黒くなり、細い身体はすっかり逞しく、張り上げる声はオバサンそのもの。人が美人でいる時間は、恐ろしく短い。美人薄命とは、そういうことだったのだ。 でも――庭を見やれば、あの時の大家さんから株を分けてもらった月下美人が、蕾を膨らませ始めている。今夜咲いたら、花と夜に酔わされた振りをして、たまには甘い言葉をかけてやろうなどと僕は考える。 妻として母親として、元気にやっている和美は、やはり美しいと今も思っている。 愛は美人ほど薄命ではないのだ。 |
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| □通りすがりですさんからの批評 (2006/07/15 20:59) |
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美しい事はいいことですね〜。 素敵だなあ。月下美人。 健康的な文面に、美しい花のモチーフがぐっと世界を持ち上げてて、凄くよかったです。 |
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| □名無しさんからの批評 (2006/07/16 15:58) |
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まいった。この一言ですかね。最初はまた愛だ恋だの恋愛話かと思ったのですが(失礼。自分が恋愛話は苦手なせいなのですが)、まさかこういう具合に上手いオチが用意されてるとは……。表現もずば抜けて綺麗、豪華絢爛というわけではないのですが、好き嫌いなく万人受けしそうな表現で高感度大。(あくまで自分の評価ですがね) ありがちな話なのに構成か表現かとにかくおもしろく読ませている。 この手腕が本当にうらやましいですね。見習いたい。 褒め殺しになってしまいましたが本当に悪いところが見つからなかったので。こういう評価にさせてもらいました。 |
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| □名無しさんからの批評 (2006/07/17 19:48) |
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思わず月下美人の画像を検索してしまうほど、月下美人の美しさも「美」の儚さも表現されていたと思います。 「解る」は「分かる」でも良かったかと思います。 「愛」って言われちゃうとちょっと読んでるほうが照れちゃいますが、明るい作風が嫌味なくいいなぁ、と素直に思える作品でした。 |
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| □名無しさんからの批評 (2006/07/18 18:40) |
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| すばらしいセンスのある作品だと思います。なんていったってお洒落。100点です。 |
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| □匿名希望さんからの批評 (2006/07/18 23:21) |
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やられた。上手すぎる。 このレベルの作品を批評するだなんて、逆に辛いです。
夜というテーマで、なおかつ月下美人という素材を上手に調理している。 同じ物書きとして、悔しいやら羨ましいやらです。 |
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| □名は無いさんからの批評 (2006/07/19 13:30) |
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前向きな作品が読めて、嬉しく思います。この微笑ましさは、私の頭では描けない。
あえて指摘する所を上げるなら、構成に少々勿体無さを感じてしまいます。始め抱き合っている場面が出ると、どうしても和美と僕の肉体的な側面が強くなるので、愛情よりも性欲的な面を強く見せられているような気がします。
それならば最後の場面で「今夜は久しぶりに可愛がってやるか」的な発言にしても面白いかもしれませんが、結局は好みの問題ですね。 何か批評じゃなくて、だらだら言ってますが、最後の一文がとても良いので、それを生かすにはこういった形が最適なのかなとも思い直したり。
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| □無名さんからの批評 (2006/07/23 21:16) |
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締めにはしてやられた。だけれども、改めて考えると、その締めに対していろいろと思うところが出てきたのも事実。 愛は美人ほど薄命ではない。 その前に、和美に対して美しいと言っていたが、美人と美しい人の差は、分からないわけではないが、続かれるとすっと読み下せないところもある。 また、ラストを否定文にしたことにより、読後に否定が残るのも事実。 おそらく何パターンも考えた結果、この一文を選んだのならそこは読者と筆者の間にあるもので、いいと思う。 展開による着地点はよかった。後は着地の表現を、サル漫にあったが人にあわせて変えてみるってのを考えるのも面白いかもしれない。 美人は薄命だけれども、愛はいつまでも君と共にある。みたいな、肯定型で終わらせたほうが、私は好きだったりします。 私も「月下美人が咲いたから見に来い」と近所の方に誘われたことがあります。妙にリアリティーがありました(笑)。
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| □名無しさんからの批評 (2006/07/27 12:24) |
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「あれから十年――」 「八歳になった息子」 八歳がそうんなに重要でないとしたら「小さな息子」くらいにして、想像の余地を残した方がいいのでは? 頭の中で引き算してしまって読む雰囲気が崩れてしまう気がした。 最後の一文、考えましたね。 |
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| □匿名者さんからの批評 (2006/08/02 21:28) |
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今月の作品の中で一番の出来だと思います。 美人薄命の解釈もなかなか巧くされてるし、オチの持って行き方も現実味があって気持ちの良い物です。 文句なし、次回作にも期待。 |
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| □名無しさんからの批評 (2006/08/11 01:12) |
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| □名無しさんからの批評 (2006/08/11 18:06) |
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前半がわりとたるい。会話文体のぎこちなさや、女性の表現等、どこかぎくしゃくしている気がする。あとちょっと赤面してしまう。けれども、オチのすがすがしさはなんだか胸がすく。どんでん返しでもなく、ありがちな家庭的な場面に持ってきて、きゅんと胸に来る。前半がもっとスマートにまとまっていたら、本当に良かった。 |
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| □名無しさんからの批評 (2006/08/14 11:55) |
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| 全体の作品を通して印象が薄く、批評に何を書いていいか考えた。他者のコメントを見る限り、この作品はよっぽど素晴らしいものなのだろう。印象が薄いということは粗がないということだが、私はあまり好きではない。本文中、あれから十数年――。とあるが、直接書くのではなく間接的に表現して欲しいと思う。 |
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| □名無しさんからの批評 (2006/08/14 15:39) |
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ちょっとクサいのが、個人的には好みではないが、上手い。 言いたいことが凝縮された1行が印象に残る作品というのは、大抵は良作ではないかと思う。 |
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| □17歳、若手さんからの批評 (2006/08/15 00:31) |
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すごく良かったです。月下美人は僕も見たことがあります 凄く綺麗な花ですよね。 それにも劣らない美談だと思います |
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