お正月―――。
あたらしい年の幕開けにふさわしい心境に一日でもなりたかったですよ、俺は!
嗚呼、悲しきバイト人生。〔番外編〕
シモヤマトオルくんの場合。
12月は師走。
廊下を走るなと注意する教師でさえも走ってしまうほど忙しいといわれる月のことである。
主婦でも会社員でも、だれでも一ヶ月もしないうちに『年越し』というイベントがあるのだ。
会社は年末年始で約一週間の休暇があり、休暇前には忘年会と仕事の処理でサラリーマンのみなさんは大忙し。
主婦は、子供のクリスマスプレゼントという買い物に、正月用の食料買いだめという大量出費が待っている。
さらに子供がクリスマスパーティーなんかをするなんて言ったら、また大変なことになる。
子供はクリスマスプレゼントにお年玉なんていうもらい物ばっかりの時期である。
その反対に世の大人は大忙しなのだ。
買う者がいれば、売る者もいる。
12月は年末商戦だと販売側は高額消費を狙って、この時期に新商品を発売したりする。
しかし、そんなことは花屋にはない。
年末でも多くはクリスマス前後に売上は集中するのだ。
だから御用納めとかニュースで言われる時期ははっきりいって客は少ない、と俺―霜山利―は予測していた。
幸いなことに予測はあたり、今年は数日でもいいから実家に帰省しようとこっそり考えていたのだ。
そう考えていたのは12月28日までのことだった。
クリスマスとクリスマスイブはバイト先で強制的に居座らされ、結局徹夜という行為に付き合わされてしまった。
50時間の拘束を受けたあと、一日の休みで疲れを癒して、翌日またバイトにいそしむ。
バイトも28日で終わり、翌日には電車に乗って実家に帰ろうとしていたのだが。
「トオルくん、明日の忘年会出るよね?」
と、悪魔な店長・山咲が声をかけた。
「さっき決まったんだけどぉ、ここでトオルくんのお手製おつまみをつまみつつ忘年会しようかってさ」
店長の自宅兼店舗で忘年会で、バイトの俺は料理係で無償で働き続けることだと意味しているのだ。
「す、すいません店長・・・。あいにく、明日実家に帰ろうかと思いまして、チケットも予約してあるんですよね〜」
嘘でも吐かないと、こいつらの魔の手からのがれることはできない。こんなのでOKしてくれるといいのだが・・・
「ふう〜ん。・・・じゃあ、しょうがないよね。帰る前に大量におつまみ作っておいてよ」
「は、はあ・・・」
店長の言葉に断る理由も見つからなかったので、俺はキッチンにつまみを作りに行くことにした。
「あ、トオル。どうしたの?」
バイトの入っていないはずの雄途がソファに座って雑誌を読んでいた。やはりこいつはメシ目当てに来てやがる!!
「忘年会用のつまみを作るんだよ。俺、明日実家に帰るから」
自分のエプロンをかけて冷蔵庫を見る。おさんどんと言われるようになってしまった俺は、悲しいかな、なぜか料理の腕だけは上がってしまっているようなのだ。
「ふーん。たくさん作っといてね。」
そこで俺は気づいた。つまみをなぜたくさん作る必要があるのか?
つまみなんてものは、ちょっとの量でいいはずだ。いつもより味が少し濃くて・・・
「な、なあ雄途。なんで大量につまみが必要なんだ?」
忘年会が朝まで続いたとしても、スナック菓子とかでも持つはずだ。
「たぶん、そのまま年を越すくらいまで続くんじゃない?仕事ないしさ」
年を越すっていっても、元旦になるまで明日からでも丸三日もあるぞ!!
そんなに続くのか???
「早めの寝正月スタイル・・・ってトコ?食っちゃ寝の生活だよ」
店長が顔を出して言う。要するに、暗に俺に数日分の食料を作らせるってことなんだな。
「一回にあれだけ食べる連中の食料を、数日分・・・」
考えただけでも頭が痛くなった。どうしよう、冷蔵庫の中身だけでは全然足りない。作り続けても、今日中には終わらない予感がする。
ただでさえ食にうるさい人間が何人もいるから、ひとつの料理を大量にストックしておくのは許されない。2食連続同じ料理は我慢してもらえるとしても、3食連続は許されない。そう俺の勘が伝えている。
「こんなんで俺、チケット買って帰れるのかよ・・・」
人知れずため息が漏れてしまうほど、気が重い。
たぶん、今日は徹夜で料理にかかりきりになってしまうだろう。それでそのまま駅に向かって、帰省するしかない。
個人的には乗車率100%超えの列車には座って乗りたいのだが・・・。
「あれ?チケット買ったって言ってなかったっけ?」
いいましたけど、本当はまだ買ってません。なんて言える訳ねーだろうがよ・・・
「買ってないなら帰らなくてもいいんじゃない、トオルくん」
「・・・・・・は?」
「だから、うちにずっといておつまみ作ってくれればいいじゃん♪」
五歳児のような笑顔をして店長が見ていた。
ど、どうやら俺はまた思っていたことを無意識に言葉にしていたらしい。
「じゃあ、今日からここに住み込みのシェフよろしくね〜」
タダ働きの、シェフ決定。
あああ・・・、俺ってバカ。せっかくの帰省がぁあぁ〜〜・・・
結局。俺は毎日3食の食事から好みに合わせたつまみ作りを連日、それもせっかくの正月休みの期間中ずっとやらされました・・・。
しかも、俺のつまみを作っていたら年を越してました。。。
正月なんて気分じゃねー!!
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