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(3) 「きゃぁぁぁ―――!!」 ―――どすんっ!! エルの北隣の都市・ハルームとの境の崖から一人の少女が足を滑らせた。 「いたたた・・・」 彼女は地面に強く打ちつけたところをさすりながら、自分の衣服についた埃を払った。 その少女が身に付けているのは、魔法使いだけが着ることを許された上着を着ていた。ただし、見習い魔法使いの、であるが・・・。 「あ〜あ。汚れちゃった」 服が汚れたのは、自分のせいであるのにもかかわらず、思いっきり不機嫌な表情を浮かべていた。 彼女の名は、シェリルという。 「あ!!早くお師匠さまに追いつかなきゃ!!」 崖を偶然にも滑り落ちたおかげで多少の近道ができた。・・・といってもシェリルの師匠が向かった先と比べると、些細な近道にしかなっていない。 「・・・こんな感じに近道したって、ラサまではまだまだなのよねぇ・・・」 『はぁぁ・・・』 盛大な溜め息をついたあと、シェリルは目の前に広がる都市・エルへと再び歩き出した。 「ほんっとに大きな都市よね、エルって」 少しずつ近づいていってる巨大都市を見ながら、誰に向かって言うでもなく、シェリルは話した。 「田舎町のジオとは比べ物にはならない位―――」 ジオ―――それは、シェリルが育った町―――を思い出して言った。 「ジオ、か。懐かしいな・・・。もうどれだけ帰ってないんだろう・・・」 大陸の西の果ての大都市・イオから北へ5日ほど歩いたところにある街、ジオ。北に位置するといっても、ジオは多少気温は低いが、温暖な気候である。なので、冬もさほど厳しくなく、ほぼ一年中農作物が栽培されている。街は豊か、といえるほど作物はあふれてはいないが、人々の胃袋を満たすほどの量はある。―――つまり、供給量と消費する人口の比率が実にバランスの良い街なのである。 そんなところへ、10年前、シェリルはやってきたのだ。 10年前―――。サラール暦15年の春のこと―――。 シェリルは当時6歳であった。 しかし、その当時の記憶はシェリルはもっていない。 シェリルの記憶はロノアとユナという夫婦に引き取られてから始まっている。 ロノアとユナは二人とも魔法使いで、ジオよりももっと北にある不毛の地、アルラという、街の住民がほとんど魔法使いという特殊な街の出身であった。 そんな彼らが仕事を得るためにジオに移り住み、一日の仕事を終えて自宅に帰る途中に路上に立ち尽くした少女を見つけた。 ―――それが、シェリルであった。 出会った当時のシェリルは、魔法をかけられていた。目的を遂行するまではなにも情報を得ることが出来ないようにされていた。つまりは、目的を達成するまで魔法から開放されずにいる、という残酷なものだった。 ロノアとユナはシェリルを家に連れ帰り、魔法を解こうとした。しかし、かけられていた魔法は実に複雑なもので、実力のある彼らにも解くのは困難だった。 だが、魔法はシェリルにかけた本人によって解かれたのである。その魔法使いはシェリルの実の父親で、ロノア夫妻の親友であった。父親は、ロノアたちに娘――シェリル――を養女として引き取って欲しいために彼女に魔法をかけたのだ。 ロノア夫妻の親友は、自分の死期を悟って、孤児になる娘のことを気に病んでロノアに預けたのだった。 そして、その通りにシェリルの実父は数日後に他界した。 ロノアたちはシェリルを養女として育てた。 その9年後―――。サラール暦24年―――。 15歳になったシェリルは魔法学校を卒業して、一人前の魔法使いとなるべく、ラウルという魔法使いの弟子として一年間の旅に出ることになった。 旅に出る当日。 シェリルはロノアとユナに送られて家を出た。 「十分、気を付けるんだよ。夜は野犬とか野獣とか襲ってくるから―――」 ユナはシェリルに言った。 「大丈夫っ!!ラウル師匠もいるし、他の魔法使いさんもいるし、私もいるし!!野犬なんてイチコロよ!!」 「そ、そうね・・・」 ロノアとユナは顔を見合わせて苦笑した。 ((シェリル、お前が一番心配なんだ・・・)) べつに夫妻はシェリルの身を案じているだけではない。むしろ、彼女の発する魔法の方が心配だった。―――シェリルの魔法は正しい方向へ導かれて行かないことが多々、あるのだった。 心の中で、養父母たちは、養女の師匠と同行するほかの弟子たちに合掌した。 ラウルたち一行は大陸を約一年かけて一周し、最終目的地、魔法使いたちの中枢機関がある都・ラサを目指して出発した。―――のちにバクダンとなるシェリルを抱えて。 数ヵ月後、ラウルたちはバクダンこと、シェリルをおいて旅立ってしまうのであった。それは、正しい方向に導かれていなかった新入りの弟子たちが次々と正しく作用するようになったのだが、シェリルに関してはいつまで経っても正しく作用されないでいたからである。そして、シェリルから紡ぎだされた魔法は倒すべき相手には向かっていかずに、なぜか仲間に向かっていってしまうのである。一行は、いつか相手を倒す前に、味方に倒されてしまうとの危機感から、全員一致でシェリルの寝ている間に旅立っていったのだった。 置いていかれたシェリルの方は、魔法協会の掟によって一年間は家に帰ることを許されてはいないので、師匠ラウル一行を追ってラサに向かおうとしていた。 * * * * * シェリルは、ようやくジオからラサまでの道のりでちょうど中間あたりに位置するエルという街の手前までやってきた。 「やっとエルだわ。・・・・・・ラサまであと半分!!あぁ、ふかふかのベッドが恋しいわ!!」 シェリルはエルに向かって再び歩きはじめた―――。 <第一章 完> |