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登*校*日

T

――み。――――つみっ。

「な―――つ―――み―――!!」

ドンッ!!

*  *

ある夏の日の朝のこと。

坂口家のある一室に起こるいつもの出来事。

「起き〜ろぉ〜!!なぁ〜つぅ〜みぃ〜!!」

坂口家の家事を仕切る女主人が娘である夏海(16歳)を起こす毎日の恒例行事―――。

「まったく、なんで毎朝アンタを起こすのに20分を使わなくちゃいけないのよ!!――ホラっ、もう8時よ!!今日は登校日でしょ!!」

毎朝のことながら、女主人はあらゆる手段を使って、夏海を起こす。

―――きっかり20分後。

ようやく夏海は部屋から出てきた。しかし、起こされた夏海の格好を見ると、一目で女主人がどうやって起こしたのかが分かる。頬には往復ビンタの痕がうっすらピンクで残っていて、肩甲骨のあたりまで伸ばされている髪は見事にパンク・ミュージシャンのように逆立っている。

「おはよ・・・」

夏海はテーブルに着いて、正面に座っている父に挨拶をする。

「ああ、おはよ。・・・今朝はそんなにひどくはないんじゃないか?」

新聞を読みつつ、コーヒーを飲みながら言った。

「うん・・・いつもより30秒早く起きたからね・・・」

夏海も自分のために用意された冷めたコーヒーを口に含んだ。

「行ってきまーす」

玄関では、夏海と瓜二つの顔を持った晴海がもう登校するところだった。夏海は玄関に向かった。

「え?もうそんな時間??」

のんびりと夏海は言う。夏海は時間にはルーズなのである。

「今日は登校日だよ、夏海。大幅に遅刻したら欠席扱いになるから早く行きなさいよ」

「・・・欠席になるんだったら、行きたくないよね・・・」

―――当然の心理である。

「あ、そう。担任が出席者のために冷たいジュースを用意してる、って言っても・・・?」

「・・・え?」

夏海は目を見開く。

晴海はそれを見て、深く溜め息をついた。

「―――あんた、遅刻ばっかしてるから、一度ももらったことないんでしょ。あれは担任が自腹で生徒のためにジュースをおごる、どこの学校でも見られる恒例行事だよ」

夏海は動かない。

あーあ、やってらんないわ・・・じゃ、行ってきます、と言い残して晴海は家を出て行った。

「え?あ、ちょっと晴海!!」

晴海を呼びとめようとした夏海の手は宙をさまよった。

「夏海、行くなら早く行きなさ・・・」

母が言い終わるまでに、夏海は猛ダッシュで部屋へ行き、すぐに玄関に戻ってきたかと思うと、制服を着た夏海が靴を履いて、行ってきます、と言いながら家を出て行った。

「・・・ほんと、ジュース1本であんなになるなんて、誰に似たんでしょ?」

「・・・・・・・・・」

父は何も言わずにコーヒーを飲んだ。

U

夏海の通う高校は家のすぐ近くにある。

寝坊で学校の連続遅刻記録を日々更新し続ける夏海にとって、または両親、そしてクラス担任も家の近所の高校を第一志望校と考えていた。

 そして、そのとばっちりを受けたのが、夏海と瓜二つの顔を不幸にも持つことになった双子の姉・晴海だった。

 晴海は時間にルーズな夏海と違って、目覚ましが鳴る前に目が覚めるほど、時間にきっちりとした性格の持ち主だった。それが、夏海と同じ顔を持って生まれてきてしまったがために、保育園に入園してから今まで、夏海と間違われて何度お小言を聞かされたことか・・・。だからこそ、義務教育が終わったら夏海と別の高校に通ってやるんだ!!と決めていたのだが、三者面談の時に、自分の担任と、夏海の担任と、母に同じ高校に入ることを頼まれ、そのうえ、頭まで下げられ、考えておくと言って、その日の夜に父と夏海本人に「お願い」されてしまい、夏海と同じ学校に通う羽目になった。

「おはよう、晴海っ!!」

晴海の背後から声をかけてきたのは、生まれてからずっと迷惑をかけられてきた夏海だった。

―――あり得ないわ!!

 晴海は目をこすって、背後から目の前にやってきた人物を見た。夏海だった。

「・・・ナニやってんの、晴海・・・」

 ―――この間延びしたような、欠伸をかみ殺したような声は・・・。

 いいえ、これは絶対に夢よ!!幻よ!!

「な、夏海・・・?」

おそるおそる口を開いたら、目の前の人物はやれやれと肩をすくませた。

「アンタと同じ顔した女が双子の妹の“夏海”以外に誰がいるって言うのよ?」

―――世界には同じ顔した人間が3人いるじゃあないですか・・・

「私の妹はさっきまで家にいたわよ。ここに今いるのと言うのはあり得ないわ・・・」

「さっきまで家にいたわよ。・・・もう高校生なんだから遅刻記録更新なんて馬鹿げてるものはいい加減に辞めようかと・・・」

―――それは、殊勝な心がけだが、遅刻なんぞはしないほうが当たり前なんだけど・・・

「・・・っていうのは、ウソ。今日はジュースのためよ!何年もジュースを飲み逃ししてたなんて悔しいのよ。1度でもいいからいただきたいと思って・・・」

「・・・さいですか・・・」

時間にはルーズなことは天下一品。

そして、食べ物に関する貪欲さも天下一品・・・。

それが、坂口夏海、16歳。

「行くよ!晴海!遅刻はあんたの中では許されざる行為でしょ!!」

夏海が晴海の腕を引っ張って行く。

(なんか、いつもと反対で気持ち悪いわ・・・)

―――8月△○日:夏海の遅刻更新記録・1332日にしてようやくストップ―――

V

「・・・ォィ、坂口がこんな時間にいるぞ・・・」

(^_^D (ふむふむ・・・)

「え―――っ。登校日なんて絶対来ないと思ってた」

(-_-#)

「もしかして、双子の姉ちゃんがクラス間違えてるんじゃ・・・?」

「あり得ないよ。6組の方はしっかりしてるから・・・」

(-.^)ぴく

「・・・じゃ、じゃあ、オレたちの目の前にいる坂口のそっくりさんは誰なんだ?」

「・・・さぁ・・・」

「本当は三つ子だった、とか・・・」

「う〜ん・・・」

「もしかして、地球外生命体?坂口が未知の生物に体を乗っ取られたりして・・・」

「「「・・・いちばんあり得る話だな・・・」」」

(-_-X) ぴくっ

(―――わたしゃ、地球外生命体に乗っ取られたほうが相応しいんかい!?)

結論:

―――人間、日頃の行いがモノをいうのである・・・―――

おーい、席に着けー。出席取るぞー」

 そういって教室に入ってきたのは、クラス担任の成沢(なるさわ)であった。夏休みだと言うことで、担任の服装はTシャツにジャージ、手には出席簿とうちわ―――どうみても教師には見えない。

「じゃあ、呼ぶぞー。――ん?」

成沢は毎朝、その席にあるはずがないものを見た。夏海が座っているのである。

成沢は夏海をまじまじと見た。クラスメイトたちも夏海を見る。

「お前、坂口か?」

「ハイ」

成沢は目をごしごしとこする。信じてはいないようだ。

「坂口晴海か?」

「・・・チガイマス」

「・・・ほんものか?」

「本物です」

「朝、起きれたのか?」

「ハイ。・・・ちなみに、三つ子でもなければ、地球外生命体でもないです。正真正銘、坂口夏海です」

「・・・そ、そーか・・・ははは・・・」

成沢とクラスメイトは力なく笑ってごまかした。

「じゃ、改めて出席とるぞ。―――」

出欠が確認されて、成沢は出席した人数を数える。―――27人か・・・多いな、ったく・・・とこぼした。

「んじゃ、約束どおり、ジュースをおごる!!誰か一人手伝ってくれ」

クラスメートの一人が成沢に指名され、あとについて教室を出ていった。

 そのとき、夏海は感謝していた。

晴海オネエチャン、あなたを神と等しく感謝申し上げます。

いつも遅刻ばっかりしてろくに夏休みの登校日なんぞに行かなかったわたくしめのために接していただき、ありがとうございます。

わたくしは学校生活のなんたるかを履き違えていたようです。

これからは早起きをし、遅刻をなくすよう、精進してまいる所存でございます。

神様、・・・いえ、晴海サマ、そして母上さま、わたくしめの身を案じていただき、ありがとうございました。あなたがたの苦労は決して忘れません。

この坂口夏海、この場を借りて日々の感謝を申し上げます・・・。(礼)

「おーい、1本ずつだぞ。今日はオレの自腹なんだからありがたくいただけ!!」

 そういった途端、飲み物に飢えた連中は成沢が置いたジュースを求めて教卓に群がった。デパートのワゴンセールに群がるおばちゃんどもの根性は高校生にも受け継がれている、と出遅れた夏海は思った。人が引けたころに夏海は目当てのジュースを取って席に戻った。ジュースはさっきの熱気と夏の気温の高さでぬるくなり始めていた。ギンギンに冷えたものは期待していなかったが、予想以上にぬるくなってしまったのは少々許せなかったが、その場で飲んだ。

 ジュースがクラス全員に行き渡ったときに成沢は教卓に戻り、2学期が始まるまでの数週間を有意義に過ごすように、と告げてHRは終わった。夏海が教室を出ようとしたときに成沢が、遅刻を減らせ、と言ってきた。

「はーい」

夏海は生返事を返した。成沢はこのとき、夏海の遅刻は続くだろうと確信したとか、しないとか・・・

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

9月1日:2学期開始。またもや夏海は遅刻・・・。

 

<完>

【あとがきという名の言い訳】

この話をお読みいただきまして、ありがとうございます。

藍(らん)と申しマス。

この作品は『夏』をテーマに作ってみました。・・・が、いかがでしょう??

わたしの構想の中ではシリアスに持ち込む話だったんですが、いつのまにか、万年遅刻女のある日をずらずらと書いてしまいました。・・・結局、ギャグにもならず、不発で微妙な作品に・・・(泣)ホントに申し訳ありません。

2002年6月     藍



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